言って、刹那のためらいもなく咲桜が身を乗り出し――唇が、重なった。俺、固まった。

十秒ほどもくっついたままだったろうか。

「……ど、うですか……」

咲桜は火照る頬で、恥ずかしそうな顔で見上げてくる。

実のところ、困った。

まさか本当に咲桜からキスしてくるとは思わなかった。

頬か、せめて手にとでも妥協したフリをしようと考えていただけに、真っ直ぐ唇を捉えられたのが嘘のようだった。やばい、嬉しい。

トン、軽い音がして、咲桜の背が背もたれに押し付けられた。咲桜は「え?」と瞬く。

「上出来。お嫁さん?」

「な? およ――んっ」

今度は、俺から距離を詰めた。ゼロ距離。咲桜との間に隔てもなにもない。

思うまま優しい口づけをする。咲桜に抵抗の様子はなく、求めれば応(いら)えがあった。

咲桜から力が抜けていくのがわかって、今度は頬や額、瞼にキスを落とす。

開いた瞼の下の瞳は薄ら潤んでいて、これ以上ないほど妖艶だった。

……先ほどの咲桜のヘンな解釈を聞いていなければ、何もしないでいた保証はない。

まだキスを出来るほどの距離を残して、背中に腕を廻した。

咲桜が頬ずりするようにぴったりくっついてきた。

「……咲桜」

「はい……」

声まで潤んで聞こえる。だからそれ以上色香出すな。

「来年も……同じものが、ほしいな」

「……キス?」

「うん。咲桜から」

「……がんばります」

くすりと笑みがこぼれる。

こうやって、未来の約束が出来るようになるなんて。自分ごとながら信じられない。

「あ……十二時、なるね」