咲桜の顔が驚きに見開かれる。ギャーッ! 腕捕縛されたー! さっきまでのシリアス加減どこ行ったー! いつもなら驚いた顔一つで終わるのに流夜くんが乗ってきただと⁉ 誕生日効果⁉

咲桜が泡喰っていることだけはわかった。

咲桜の考えていることは本当に全く推論の立てようがないくらいわからずに困りきる毎日なのだけど(『性別(一応)女性』で考えると、比較対象に値するのが、思考回路が自分とほぼ同じな弟だけだ。斎月とは脳内まるっと取り替えても、恋人のこと以外はろくすっぽ変わらないんじゃないかと思うくらい考えていることが同じだった)。

……俺から見ると咲桜は、感情表現豊かなのだけど、学校での評判は少し違っていた。

まさか懸想(けそう)している男子が頼以外にいたら危ないと、それとなく様子を窺ったことがある。

……のだけど。

『華取は? 美人系』

『あー、確かにパッと見きれーで優しそうだけどなー』

『普段大人しいんだけど、最終的には華取は日義の飼い主だからな……』

『この前日義に拳突き出したときのカオ、すっげ怖かった。俺ムリ』

『なんか……頼もしい? のか? 相手が社会人、うん納得。そんな感じ』

何が無理だ誰がやるか。……と言うか咲桜、お前教室でどんな状態作り出してんだ……。

拳突き出したって……喧嘩でもしかけたのか? そんで日義の飼い主ってなに。

窺って、安心するか邪魔立てするかの対応策を考えるつもりだったのが、恋人の奇行にうなだれてしまった。

咲桜は同年代の男子にはレベルが高いようだ。

当然のことながら、恋愛的意味ではなく。

安心して……いいのか?

壁に手をついて考え込んでいる反省ザルそのまんまなカッコを旭葵に目撃され、『りゅ、流夜……?』と心配そうに声をかけられた。

『うるさい消えろ』

一声に伏すと、旭葵は顔を引きつらせた。

『ちょ、流夜、本校舎でそれはマズいんじゃないのか?』

『………』

何故か旭葵が隣に立って歩く。やめてくれ。目立ちたくないんだ。

しかし罵声を浴びせた相手にそんなことを言われたのは初めてだった。

『……お前いい奴だな』

素直に、そう思ってしまった。

旭葵がわけがわからない顔をしていたけど、暴言を吐いてなおかつ心配されたのは旭葵が初めてだった。

吹雪だったら暴言に暴言を返してくる。降渡だったら諌めてくる。宮寺だったら言い合いになる。

……新しい人種と出逢ってしまった。