「さすがにあるよ。何度か。直近では……あのバカの教育に失敗したって知った時だな」
「……斎月? 何か教えてたの?」
「うん。同じ学徒だったからな。……そこまでで勘弁してくれ」
今更だって泣きたくなる話だ。
斎月に暴れ癖がついたのを知ったとき、『流夜さんがさくに武術は教えても武道は教えなかった所為ですよ』。
……主咲にそう無表情で言われ、あの時の自分死ねと頭を抱えた。
なんであのバカを一人置いて日本に戻った。あの短絡思考はまだ主咲と逢う前だったのに。
ついでに心の中で泣いた。それ以上に斎月がもたらした被害の大きさたるや。
腕の中で咲桜が顔をあげる。
「……流夜くんと斎月の関係ってほんと不思議だね」
「それはヘンな勘ぐり入ってる?」
「いや、なんかもう恋愛どうのと誤解すると痛い目見そうなので考えません。兄弟ってこんななのかなあ? とは思う。あと、仲いいなあって」
「待て。どこをどう見たらあのバカと仲良く見える。教えてくれ。すぐに正すから」
「………」
なんで仲良く見えてるのを正すの。仲悪く見せる方面は『正して』ないでしょう、と咲桜の目は胡乱だ。
「……喧嘩するほど仲がいい?」
「………そこか。確かに降渡と絆、喧嘩ばっかだけどな……」
「………」
違うと思います。降渡さんと絆さんとは違った種類の仲の良さと喧嘩だよ、と続けられた。……違うのか。
「しかし俺があれを怒らないとなると……主咲もあれにはダダ甘いからな……」
「………」
あれは行動力がハンパなさ過ぎるから、ある程度止めておかないと――
「じゃあ私が見てる」
「……は?」
「私も斎月のこと、見てる。間違ったことしそうになったら怒る。流夜くんが、自分にかまけられるように」
「――――」
咲桜の瞳があまりに真っ直ぐ過ぎて、現実を告げる機会を逸してしまった。
咲桜の両肩に手を置いて、ぐだっと頭(こうべ)を垂れる。