流夜くんの瞳が少し怯えていた。
……少しくらい牽制しておかないと。
「今日、一緒にいてくれてありがとうございます」
「……うん」
今日一緒にいられて、明日も朝までここにいられる。
「がんばってよかったあ……」
こぼれんばかりの笑顔が抑えられない。父さんに土下座した甲斐があったというものだ。
笑満にケーキ作りも教わって、龍生さんにも色々教授してもらって。
本当に自分の幸せは、一人ではいだけない。
桃子母さんが、在義父さんと出逢ってくれてよかった。母さんが、桃子という人で――
「……咲桜」
流夜くんの指が、そっと私の頬を撫でた。
「あっ、ごめん。その……」
泣くほど嬉しかった。自分の命が、あることを。自分の命を―――
「咲桜。……ありがとう」
腕が背中に廻って抱きしめられた。
「……生まれて来てくれて、ありがとう」
「……―――」
くっと唇を噛んだ。ああ、私、もう大丈夫だ。自分の命を、ここにいていいのだと肯定出来る。――して、いいんだ。
「うっ……」
至近距離の流夜くんは、穏やかな表情をしている。
唇噛みしめて目を潤ませて必死に泣かないようにしている変顔になっても。ただ、楽しそうな顔をしている。
「りゅ、やくんこそ……ありがとぉ……」
「……うん。生きてきて、よかった」
「わ、たし、こそ……」
今まで命を、生きることを捨てないでいて、よかった。