「子どもの頃、町の夏祭りに夜々さんと一緒に行ったんだ。そのとき、もうお酒入ってるおじさんたちが神楽やってて、私思いっきり頭噛まれたの」
「ああ、子どもに噛み付くと丈夫になるとか言うよな。それが嫌な思い出なのか?」
「ううん。その後。私びっくりしちゃってびーびー泣いちゃって、夜々さんが抱っこしてくれたんだけどね、……何がどうしてそうなったのか、酔っ払いおじさんが、別の酔っぱらったおじさんに抱き付いてちゅーしてたの」
「……ええ、と?」
流夜くん、困ってしまった。
「人生で初めて見るラブシーンが酔っ払いたちの戯言でショックでした。なんかもっと綺麗な感じのがよかった」
「………」
取りあえず子ども心に傷を負った出来事だった。
「だから父さんと夜々さんの結婚式とか超希望! 人前式とか素敵! 箏子師匠に止められても誓いのキスはしてもらうよ!」
「………そうか。夢はでかい方がいいな」
流夜くんが半ばあきれているのはわかった。でも私のノリに付き合ってくれるんだ。
「なのに……父さんと夜々さんの結婚式を楽しみにしてた私はお酒に対して嫌悪感を持つようになりました、というお話」
「……根が深いな。在義さんたちにしか解決出来そうにないし」
「うん……。だから、流夜くんがお酒とか好きとかじゃなくてよかったってことかな」
お酒もタバコも、苦手だから。もし流夜くんが好む人だったら、近づけてもいないかもしれない。
「あ、ケーキね、初めてまともに出来たんだ。甘いの大丈夫?」