私から、そう願った。
声は恥ずかしさに揺れる。流夜くんは刹那目を見開いたけど、「喜んで」と請けた。
流夜くんの左手が咲桜の左手を取って、咲桜の左手の薬指に指輪が通される。煌めく指輪。
結婚する人だけがゆるされる、特別な場所。
「うれしー……」
指輪の通った左手を、右手で包むように抱きしめる。流夜くんと結婚の約束をした、証拠。指輪を抱きしめる私ごと、流夜くんが抱き寄せた。
「まだ不自由させてごめんな……」
「ううん……自分で、望んだことだから」
ぽふっと大きな胸に額を預ける。
叶えてくれるのは、この人だけ。
「りゅーやくんってなんでそんなに優しい」
「……初めて言われる評価だな、それ」
――流夜くんが他人に対して冷たいとか、冷酷になりきれるとか、降渡さんや吹雪さんから、今までの評判は聞いている。
でも、それを真実とは思えないほど流夜くんは優しい。というかだだ甘い。
「………」
「あの、ね?」
「うん?」
流夜くんの腕の中で身じろいで、顔をあげた。
軽く胸を押して、腕(かいな)から逃げる。そのまま流夜くんに向いて正座した。
「あの……前に、言ってた、その……恋人の、ね?」
「うん」
何かもの凄く恥ずかしい。でも、ちゃんと言って置かないと。
「あの、歴史の勉強を、教科書以外にしまして」