「ごめんなさい!」
「なにが?」
半泣きで謝ると、流夜くんは私の突然行動にはもう慣れたようで、苦笑した。
「取りあえず入ろう。食べていんだろ?」
「その前に毒味します!」
「……そうか」
流夜くん、平坦な瞳で、もうツッコミもしなかった。
扉までの短い距離なのに、流夜くんはまた差し出し、私はその手を取った。
本当に何だかさっきから紳士的というかさらっとカッコいいことするからなんなんだろう困る。
流夜くんの部屋は、相変わらず学の香りがする。いろんな知識がそこここに飛んでいそうだ。
鍵が落ちる音。流夜くんの部屋の、ローソファ。並んで座るのがすきだった。
「俺も、恋人の誕生日とか初めてでよくわかってないから……年甲斐もなく申し訳ないけど」
「ううん、ううん!」
必死に首を横に振ると、流夜くんはくすりと笑った。
「せっかくだからどこか連れて行こうと思ったんだけど……咲桜も考えててくれたんだな」
「うん。私が流夜くんとこいたいってお願いしたんだし。その……やっぱり二人きりでいられるのが……すごい幸せなので」
するりとそんな言葉が口からこぼれた。大っぴらには出来ない関係だからかな。二人きりの時間と、空間は、何よりの宝もの。
「……なあ、今日はほんとに帰さなくていいのか?」
ふと、流夜くんの声がどこか沈んで聞こえた。
「あ、それは、流夜くんのお誕生日の日をすぐにお祝いしたいって私の勝手だから……流夜くんが嫌だったりお忙しかったら帰るよ?」
「だめ」