「え? あ、うん。なんかお仕事がー、て電話来た」
珍しく歯切れの悪い言い方をしていた。そんなに慌ただしいのかな。
テレビでニュースは見ていたけど、火急の事件はないようだったけど。
「ほんとは、今日一番に言いたかったんだけどな」
「一番? おはようとか?」
「………」
流夜くんが押し黙った。あれ? 変なこと言ったかな? なんだか沈黙の仕方が妙だ。
「……咲桜、今日は何の日だ?」
「流夜くんの誕生日前日」
……あ。言ってしまった! しかもまだ流夜くんのアパートへもつかない道中の微妙な場所で!
今日はどこか出るかと言って来た流夜くんだったけど、私の希望でお出かけはナシになったのだった。ケーキ、大事に持っている。
流夜くんは間の抜けた顔をする。
「え……俺?」
「うん。八月一日。降渡さんに聞いたんだけど……はっ! まさか私、降渡さんに騙された⁉」
どうでもいい嫌疑が発生していた。
これを降渡さんが聞いていたらさめざめ泣くことだろう。俺、りゅうとふゆのことで嘘つかないよ……とか。
「あ」
今気づいたといわんばかりに流夜くんは小さく声をもらした。
「え? あ、あの、合ってる? 騙されてる? 私ケーキ作って来ちゃったんだけど――」
「あ、いや、今思い出した……確かにそうだ。そうか、咲桜と一日違いだったのか……」
何やらブツブツ言っている。
えと……明日がお誕生日、でいいのかな?
「その様子だと、同じ状況だったみたいだな」
「え?」
もう見慣れたアパートの駐車場。流夜くんが車を止めて、エンジンを切った。
「十六歳の誕生日おめでとう、咲桜」
「…………………ああ!」
お祝いの返事にしてはややびっくりさせる反応で返してしまった。
私はまたわたわたし出した。そうだ! 今日だ!
「忘れてました!」