えらいえらい。親が子供にするように、俺の頭を撫でまわした。
俯いた顔があげられない。とうになくなっていた存在が急に現れて、困っていた。どういう反応をすればいいのかわからない。
親のような存在――子どもの自分を支えてくれた二宮さんたちがいたとしても、幼い俺を知っているのは、もう笑満ちゃんの家族ぐらいしかいない。
だから、この人たちの前では本当にただの子どもに戻った気がして、時間感覚がおかしくなってしまう。
今はもう、憲篤さんの背も追い越して、幼馴染という呼称しかなかった笑満ちゃんは、恋人なのに。
……どうしていいのか、わからない。
「オト、ご飯食べてく?」
「え――と」
生満子さんの申し出に、またたじろいでしまう。
今まで夕飯は大体、神宮のとこへ乗り込むか、雲居の探偵事務所兼自宅のある小さなビルに乗り込むか、バイト先でもらった弁当や惣菜を持って《白》で食べたりしていた。
俺に限り、二宮さんは持ち込みを許してくれた。《白》に行けばほぼ春芽はいたし、たまに神宮や雲居もいた。
「もし一人で食べてるんだったら、うちで食べていきなさいよ。あ、笑満に料理の腕期待しちゃダメよ。お菓子はいいんだけど……ほんと、咲桜ちゃんに弟子入りしてきたら?」
「う……わ、わかってるよ! ってかもうちゃんと習いに行ってるもん!」
え、そうなの? 知らない話に何も言えないでいると、笑満ちゃんは勢いよくこちらを見て来た。
「咲桜に習ってるもん。遙音くん、咲桜のお料理すきだもんね!」
「え――あ、うん?」
急に話を振られて、曖昧ながら肯いた。
咲桜の作るものは美味しいけど、神宮に作られた弁当をぶん取るのが本当に『面白い』から横取りしているんだ。本気で怒るから。
「あら。咲桜ちゃんともお友達なの?」
「ともだち――かどうかは……」
断言できない。