「あたしがどうして忘れられると!」

「そうよ! 笑満のお嫁先をオトのところに確定してたあたしたちの立場がないじゃない!」

「「そんなこと思ってたの⁉」ですか⁉」

笑満ちゃんまで一緒に驚いた。

「あら、オトは嫌だった?」

「いいえ全く全然そんなことは!」

けらっと言われて、必死に頭を横に振った。

「あの、お母さん? ほんとにそんなこと考えてたの?」

笑満ちゃんが恐る恐る問うと、生満子さんはにっこり笑った。

「だって笑満に、「オトのことすき?」って訊いたら「うん」て言ってたし、オトに、「笑満のことお嫁さんにしてくれる?」って訊いたら恥ずかしそーに肯いてくれたのよ? 憶えてない?」

……え。笑満ちゃんも俺も、すっかりそんな記憶はない。

俺、笑満ちゃんより先にお母さんに告白していたのか?

「……すいません、そんなことあったんですか……?」

「あ、あたしもお母さんに言った憶えないよ!」

「んー? 笑満が一歳くらいの頃かしらねえ」

「「憶えてるわけない!」ですよ!」

と言うか、一歳児と二歳児に何訊いてんだ。

反論すると生満子さんは、「オトの両親も承諾済みよ」と胸を張って言われた。

それを言われると返す言葉がない……。

俺の母の仁奈子(になこ)さんと生満子さんは同い年で仲良しだったから、どんな言質を取っていると言われても全部本当っぽい。

「でもそれはあたしと仁奈の約束だから。先を決めるのは笑満とオトよ?」

生満子さんに言われて、はっと息を呑んだ。

先を。俺は座ったまま、二人に向けて頭を下げた。