「オトは今、どこか親戚の家に?」

お茶と、笑満ちゃんが作り置きしていたというお菓子がテーブルに並び、憲篤さんと生満子さんと向かいあって座る。紅茶を注ぎながら生満子さんが問う。

「いえ。施設に入ったんですけど、中学んとき出ました」

「え……施設を?」

生満子さんは胡乱な声を出す。

「はい。なんか合わなくて。その後は、最初の頃から俺を助けてくれた人たちを頼って、今はバイトしながら一人暮らししてます。学校は特待生になれたから負担はないし、アパートも安いとこですけど」

何回か話したことがある経緯。松生夫妻は驚いたように顔を見合せている。

「逞しくなったわねえ」

「こういう気質だったんだと思います。自分の生きたいように生きてる感じです」

「そう――実はね、私たちがここに落ち着いてから、オトのことを探したの」

「「え」」

俺と笑満ちゃんの声が重なる。笑満ちゃんも初耳のようだ。

「もし力になれることがあったらと思って。……けれど、警察では門前払いを喰っちゃったわ。なんか丸暴みたいな刑事が応対したんだけど、オトの現在の住居を教えることは出来ないって。オトの、防犯のために、ご近所でも無理だって言われたの。それで……諦めてしまって。ごめんなさい」

生満子さんが頭を下げた。丸暴みたいな刑事……脳裏に浮かぶ姿があった。

笑満ちゃんも同じようだ。あのひとか。

「いえ。正直……笑満ちゃんと逢っても忘れられてるんじゃないか、とか――もしかしたら忘れてた方がいいんじゃないかって思ってました」

「そんなことないよ!」

「そんなわけないじゃない!」

笑満ちゃんと生満子さんが同時に否定した。