「―――っ!」

泣きぬれてしまった笑満ちゃんの父、憲篤さんと笑満ちゃんに連れられて、現在の松生家にやってきた。

玄関で迎えたくれた笑満ちゃんの母、生満子さんは、俺を見るなり膝を崩した。

「お、お母さんっ」

笑満ちゃんが慌てて生満子さんに駆け寄ると、はっとしたように顔をあげた。

「ごめんね、笑満……今まで言えなかったでしょう」

そう言うと、立ち上がって俺の頬に手を当てた。

「大きくなったわね、オト」

あ―――。

そうだ――った。最初に俺を『オト』と呼んだのは、自分の母親だった。母と仲の良かった生満子さんも一緒に『オト』と呼んでいた。

「………はい」

俺の声は小さい。小さく口を噛みしめていないと、唇から泣き出してしまいそうだった。

「元気だった?」

「……はい」

「笑満の先輩だったのね」

「はい……」

そう言われて、俯いてしまう。

「笑満のこと、迎えに来てくれたのかしら?」

「………っ」

見上げた生満子さんは、悪戯っぽく微笑んでいた。

「笑満、オトのこと大すきだったものね。ねえ、笑満」

「えっ、……う、うん」

笑満ちゃんは両親を前に恥ずかしそうに肯いた。恥ずかしそうにだけど、はっきりと肯いた。

生満子さんは嬉しそうに促した。

「取りあえず、入って? お父さんも、そんな顔で帰って来たの? 顔洗った方がいいわよ?」