華取さんも二宮さんも、それが本業で領分だ。
笑満ちゃんの親の憲篤(のりあつ)さんと生満子(なみこ)さんは、ごくごく一般家庭の人。
笑満ちゃんが考えるように少し俯いて、俺が声をかけようとしたときに聞こえたのは俺もよく憶えている声だった。
「笑満? 頼くんと一緒に帰ってきたのか?」
――懐かしい声。時間が、時空が一気に引き寄せられる。
背中からかかった声に、あの頃のように振り返った。そこにいたのは、少し皺の目立つようになった優しいおじさん――笑満ちゃんの、お父さん。
「……遙音くん?」
「っ……」
俺が呼びかけるより先に、名を呼ばれた。
どう――しよう、いやどうしようじゃない。挨拶、挨拶をするんだ。笑満ちゃんと付き合っていると、それを認めてほしいと。それから、お久しぶりですって、まだまだガキだけど、元気にやってましたって、いつも微笑んでいたおじさんに、こんにちは、って――
「遙音くん! ごめんな! なにも、あのとき何も君に出来なくて……っ、ごめんな、元気、だったか? 随分背が伸びたんだね。おじさん越されちゃったな。こんなにカッコよくなって――もう高校生なんだね」
『おじさん』は俺を抱きしめて、むせび泣くように言葉した。
俺は言葉がない。挨拶なんて、言葉をもう考えられない。
忘れないでいてくれた。何も出来なかったと後悔していた。幼い自分を、憶えていてくれた。成長を喜んでくれた。
――なんで逢うのを怖いなんて思っていたんだ。こんな優しい人の許で育った娘(こ)だから、笑満ちゃんはあんなにも優しい子なのに――。
「お……久しぶり、です……」
涙と一緒に言葉が流れる。
「うん。久しぶり。遙音くん」
おじさんの顔は、涙まみれの笑顔だった。
きっと、自分も。