泣いていた。絆は。

『あたしが法律の世界に進んだ理由は、降渡だよ。あなたみたいになりたかった。あなたになりたかった、じゃないわよ? あなたになってしまったら、あなたとは一緒にいられない。……わかってる。あなたや、神宮や春芽と、あたしはステージが違うって。だからあたし、あんたがあたしをすきだって言ってくれても信じられなかった。戯言とか遊び言葉みたいに聞こえてた。……でも、あんたは確かにそこにいた。あたしの視界から消えなかった。だから――あんたと並べる場所を探したわ。今はまだ、全然よ。全然足りない。降渡は遠すぎる。……正直、仕事の地位も中途半端なこの状態で嫁いでいいのかなって、思いもあるわ。でも――いいのよね? あなたの言葉、本当だって思って。そしたらあたし……あなたのために、あなたより先に死なないって、約束するわ』

すくって来た命も、刈り取った命も忘れるな……。

それは呪縛。自分がしてきたことへの。

『……うん』

忘れない。龍さんに叩き込まれた根性は、俺の芯になっている。そして今、根が増えた。

命の関わる仕事をホームとするなら、忘れてはいけない。

自分が死にさらしてきた命もあることを。

『……うん。絶対、忘れない』

絆はぼろぼろ泣いた顔で俺を見上げた。涙を拭う。

『絆。……一人で泣かないで。怖くなったら、泣きついていいから。何だったら抱き付いてくれていいから。絆が立てるまで、待ってるから』

がく。膝ではなく絆の肩が落ちた。

『……なんであんたはそう残念なの。カッコ決まらないわね、ほんと』

……何故か俺はよく、絆やふゆに残念、と言われる。

りゅうのがじゃない? と言うと、「どっちもどっち」と返される。

……りゅうほどフラフラしてはいないつもりなんだけど……そう言うと、死んだ目で見られる。

『……ま、いいわ。あんたがカッコいいのは、あたしが一番知ってる』

誰よりも深く命を考えているのも。絆は小さくそう言った。

……俺は、人を殺す予定で生きていた。