半分を彼女のために生きる? そう呟いた。
プロポーズにしては中途半端な決意に聞こえると、自分でも思う。
「諏訪山さんにそう言ったのかい?」
「いえ――……俺の人生全部で、お前のために生きるって言ったら、半分でいい、半分にまけなさい、て言われました……」
「? え?」
「絆は俺が学生だった頃から、今と同じことをしていたのを知っています。だから、半分は貫いて来た自分の生き方のために、今まで関わってきた人、これから関わっていく人のために生きなさいって言われました。……疲れたとか嫌になったとか言って、お二人と同じ世界で、生きていることを辞めたら離婚するって言われました……」
「「………」」
結婚前から離婚宣告された。
さすがに龍さんも驚いたのか、手を止めている。
ぽつりと「諏訪山の娘ちゃん、相変わらず過激だなあ」と呟いた。「……そんくらいじゃないと降渡に惚れられないか」。そう言ったのは、俺に耳には届かなかった。
絆の声が甦る。
『あんたは今までに、たくさんの命をすくって、反面、たくさんの命を裁きの舞台に送ってきた。極刑を受けた人もいる。重い刑を世間から望まれながら、司法はそうしなかった人もいる。あんたの命は、あたし一人には大きすぎるわ』
そこまで言われて、あれ? これって振られる前置き? と勘繰って一人冷や汗を流した。
『でも、大きすぎる……愛情も、あたしにくれたわね。今まで、たくさん。降渡。あんた――あなたの命は、あなた一人では収まりきらないのよ、もう。大勢の命があなたに関わって、影響されている。だから、全部あたしにくれちゃ駄目だと思うの。半分でいいわ。あたしにくれるあなたの人生は、半分でいい。もう半分は、今まで関わってきた命、これから関わる命のために生きてほしいの。……責任、っていうやつかしらね。あなたはそれを忘れちゃいけないと思うの。……あなたは、世界に必要な人よ。あたしの世界に勿論一番必要だけど、あたしが降渡を一番ほしい人だけど、生きているみんなが関わる世界に、あなたは居るべきなの。……意味、これで伝わってるかしら? 簡単に言うとね? ――もしあたしに万が一があって、あなたより先に、ここを離れることがあっても、すぐにあたしのいるところへ来ようとしては駄目だということを、言いたいの。……あたしのために生きてくれるって、言ってくれるの、すごく嬉しい。ずっとあなたの一番になりたかったんだから。ずっとずっと、あたしだけの恋人で、夫でいてほしいよ。……でも、あなたは並外れた大器。……そこはあたしが折り合いをつけるところだから、自分で感情と意志は整える覚悟よ。……生きて。ずっと。あなたが助けた命も、狩り取った命も、忘れないで』