『在義パパ、あたしは咲桜が幸せならそれでいいんです。倫理とか道徳とか、そんなのどうでもいい。どうでもいいと思える助け方を、咲桜はあたしに見せてくれたから』
『在義パパも咲桜に願うのは、あたしと一緒じゃないですか? 道徳的な幸せよりも、咲桜の幸せ』
正しい世界よりも、徳を背にしていても一人としかいだけないその幸せを。
「それに――今の流夜くんが私に勝れると思う?」
続いた言葉に、う、と息が詰まった。
とどのつまり、在義さんはりゅうが分を越えることは出来ないとわかっているから今日を許したんだ。
今のりゅうは在義さんには勝れはしない。
「……いずれは追い抜くって、承知ですか」
斜めに在義さんを見た。
りゅうが、その力も地位も、最盛期の在義さんを。
「降渡くんと吹雪くんもね。三人合わせて俺と龍生に敵うでは駄目なんだよ? それぞれ、一人独りとして、でないとね」
「………」
一対一で、育ての親に、師匠に。崇敬する存在に。
勝る。
「……心してます」
いずれは――いや、一刻も早く。
「――在義さん、龍さん」
「あ?」
「なにかな?」
二人が同時にこちらを見た。椅子から立ち、頭を下げた。
「お二人はご存知かと思いますが、結婚したい方がいます。向こうのご家族には了承していただいています。――自分のいる世界が危険だということ、妻にも危機が及ぶ可能性があること、承知しています。それでも――絆は承諾してくれました。今後、自分の人生の半分は彼女のために生きます。……お二人は、俺の親のような方です。ご同意いただきたく願います」
「………」
龍さんは黙って俺を見ている。
在義さんは顎に手をやって首を傾げた。
「……半分?」