「まあでも。流夜くんならいいかなーとね。今は私が壁になってるし、下手な真似したら断頭台追い込むし?」
「……在義さんが言うと冗談に聞こえません」
「嘘や冗談じゃねえもんな」
龍さんがさらっとトドメをさした。
「と言うかね、咲桜が流夜くんの誕生日で頭いっぱいになってて自分のこと忘れてるんだよ。流夜くんも咲桜の方は知ってるけど、自分のは忘れてるっていう状況だし」
「……それで咲桜ちゃんが今日、りゅうのとこにいるの許したんですか」
「流夜くんからお願いされてねえ。その前の日には咲桜から土下座されたし。流夜くんの方に釘刺しておけばいいかな、ということだ」
「……在義さん、楽しんでます?」
「どうだろうねぇ」
在義さんの声は愉快そうだ。
「お隣のおねえさん――夜々子さんって、かなり咲桜ちゃんラブみたいですけど、説得出来たんですか?」
「誤魔化した」
「ごまか……」
したのか。
「うん。笑満ちゃんとこだってことにした」
「あの……それって笑満ちゃんがとばっちり食いません? お隣さんの……」
「元はと言えば、咲桜に自分の誕生日明かさないのは笑満ちゃん発案なんだよ。状況見てた笑満ちゃんが、咲桜がからっと忘れてるって気づいてね」
それで笑満ちゃんが悪巧みを持ちかけて来たんだよ、と教えてくれた。
『在義パパ。咲桜の誕生日サプライズしません?』
『咲桜と先生の誕生日が重なる七月三十一日の夜、二人きりにしてあげませんか?』
『夜々さんには内緒で』
俺は意図せず半眼になった。
「……なんで親友がその父親に彼氏のとこへの泊まりの口裏合わせ頼んでんすか」
普通はその父親こそ対象になるだろうに。声まで平坦になった。
「咲桜と笑満ちゃんだからいいんだよ」
笑満ちゃんはそれでいいの? 在義さんがそう訊くと、笑満ちゃんはにっこり笑ったそうだ。
……これもりゅうから聞いているけど、咲桜ちゃんと笑満ちゃんの友情って複雑……。