「え――咲桜ちゃんって今日が誕生日なんですか?」
夕方も夜に変わる頃、《白》に俺の素っ頓狂な声が響いた。
客は相変わらずここを必要とする人たち。
皆さんには、流夜、吹雪、俺の三人は、店主・龍さんの後継と知られている。
「そうだよ。七月三十一日。名前に『桜』ってついてるから、春生まれだって思われがちだけどね」
応えるのは在義さんだ。
カウンター席には在義さんと俺。カウンターの中にはコップを磨く龍さん。
在義さんが言うに、咲桜ちゃんの名前は、母親の桃子さんが付けたそうだ。
在義さんと桃子さんが出逢ったのが桃の季節。
そのあと、桜を見に在義さんは桃子さんを連れ出した。
そこで桃子さんは、何もない自分に唯一あった、子どもの存在を愛することが出来た。
だから、桜の文字を入れた――と。
「じゃありゅうと一日違いなんですか? それにしてはよく許しましたねー。在義さんなら娘の誕生日、一番に一緒に祝いたいんじゃないですか?」
「ほんとはそうしたいところだけどねえ。……祝いたい夜々ちゃんの説得は大変だったし」
後半、若干在義さんが翳った。
「熊手持ったお隣のおねえさんですか」
りゅうから聞いている。ガチな人っぽいから、真面目な顔で応じる。