流夜くんと斎月がいる世界にとっての二人。

お互いにとっての兄弟。

流夜くんはバツが悪そうに答えた。

「……今のところは、な」

「すみませんが、誰とは代われないですね」

――とん。答えを聞いて、私は胸の前で両手を合わせた。

合図のように鳴った音。

「わかりました。斎月へのやきもちは今で終わりにします。二人にしか出来ないことなら、やり切ってください。たぶん、救われる人も掬われる人も、たくさんいると思うから」

桃子母さんも、そうやって在義父さんや龍生さんにすくわれてきたのだろうから。

私が、流夜くんに心を掬い上げられたように。

「……ごめんな?」

「謝ることじゃないよ。……私は、送り出す側にいてもいい?」

「勿論。ちゃんと咲桜んとこ帰るから」

「なら、大丈夫。がんばって。応援する」

「……ああ」

流夜くんがくすぐったそうな笑顔で、私の頭を撫でた。

「……咲桜姉様に出逢われてよかったね?」

斎月のにやにやした声に、はっとした。

「い、いやいや! お二人の仲良しに比べたら! まだまだでしょう! さっきも、流夜くんが斎月の頭撫でてて――

「「はあ⁉」」

兄弟、揃って素っ頓狂な声をあげた。うおうとびっくりした。

流夜くんは若干蒼ざめて、斎月は目を丸くしている。

「そんなことするわけないだろ、気味が悪い」

「そうですよ! 流夜さんに頭撫でられたことなんてありませんよ! 少し落ち着けって押さえつけられることは毎度ですけど!」

「………あれ?」

押さえつけ? もしかしてさっき見たのって……

「じゃ、じゃあさっき駐車場でも? それ?」

私が視線を向ける先を困らせると、流夜くんは意味がわかったらしく軽く息を吐いた。

「この単細胞が暴れるのは毎度だから、さっきって言うのもそれだな。駐車場でもめて龍さんにシメられたから」

「………」

あれえ? やきもち、なんか違ってた。しかも押さえつけって……。