「その件でこいつは女性恐怖症になるし」
「流夜兄さんは女性に大雑把になるし」
「「ほんと思い出したくない……」」
だうーんと項垂れる二人。
……こ、この二人はそんな修羅場を乗り越えて来たのか。
話を聞いて、総ての話理解出来たわけではないけど――流夜くんが斎月さんを大事にする理由が、なんとなく得心がいって、そしてそれを嫌だと思わなかった。
むしろ弟だと言っていたことが、なんだか今は嬉しく思えた。
流夜くんは、独りではなかった。
話してくれていなかった理由は……いっそ世界が違う気がしてまだ呑み込み切れていないけど、流夜くんは斎月さんを『弟』だと言うし、斎月さんは流夜くんを『流夜兄さん』とも呼ぶ。
流夜くんの世界は、それほど閉じていないようだ。
「あの、ごめんなさい。そんなこと話させて……」
流夜くんは、いや、と首を横に振った。
「咲桜のせいじゃない。元々こいつのこと、話してなかった俺が悪い」
「全く同意だ。私なんかで恋人様悩ませるなよな」
「てめえが原因なんだよ短絡思考! さっさと海外(そと)でも行って来い!」
「一応まだ中学生だから卒業までは待ってんだよ! 主咲(つかさ)くんから離れる気なんてさらさらないし!」
「おめーらほんと学習しねーな」
ゴチンッ
蹲った。
………。何度目だろ、この人たち。龍生さんは、今度は無言でカウンターに戻った。