【4】


 その日、俺は久しぶりに朝から大学へ足を運んでいた。

 理由は簡単、休学届を出すため。
 那智が入院してひと月あまり経つが俺はその間、一度も大学に足を運んでいない。授業を受けられるほど生活も落ち着いていないし、ストーカー野郎やマスコミ、変な輩が襲ってきた先日の件もある。

 色んな意味で有名人になったこともあり、世間様のほとぼりが冷めるまで休学する決意をした。引っ越しだって考えなきゃいけねえしな。

 バイトも辞めようと考えていたが、事情を知っているチーフに退職の連絡を入れたら、つよく引き止められた。
 俺の勤め先は運送の梱包作業。接客とは無縁で、いつも人手不足に悩まされている職場だ。とくに重量ある荷を梱包、運ぶことが多いから男手にいつも飢えている。

 チーフから「下川くんは勤務態度がいい。遅刻もしないし、どんな仕事も進んで引き受けてくれる。いないと困るよ。半年後でも一年後でも待っているから」等など、聞こえの良い言葉を並べられた。

 たぶん、チーフの本音は『無茶な仕事を振っても断らないから辞めてほしくない』だろう。

 断るだけ面倒になるから引き受けていただけなんだがな。
 とりあえず、バイトは辞めずに籍だけ置いておくことで落ち着いた。
 辞めるにしろ、続けるにしろ、どちらにしろ、しばらくは貯金を切り崩しながら生活だ。金まわりについて見つめ直さないといけねえ。

 職員に休学の相談したら、苦学生を支援してくれる組合をいくつか紹介してくれた。
 どの組合も申請すれば、必ず通るだろうと励ましてくれたんだが、じつに微妙な気分になる。憐みを込めて励まされたせいかもしれねぇ。同情するなら平穏をくれ。ついでに金と単位をくれ。それが本音だったりする。

 ゼミの教授にも話を持ちかけ、休学届の理由に納得してもらうと、俺は早足で研究室を後にする。


(なんとか昼前に片付いたな。休学届け)


 この後にすることは物件を借りるための名義をどうすればいいか、NPO法人に相談する予定だ。

 益田の手渡してきた資料を頼りに、いくつかNPO法人を回るつもり。
 あいつの世話になるようで癪だが、物件探しは早急にやりてぇ。そのためには名義問題がある。両親や親類に頼れねぇ以上、こういう相談は専門家に聞かねえと。まるで知識がねえしな。
 本当は一刻も早くストーカー野郎のことを片したいが、生活のこともある程度片さないと苦労するのは後々の俺達だからな。

 現実は厳しいばっかりだぜ。