乱暴な庵はともかくとして、温厚でお人好しな岬が孤立する理由に、心当たりはなかった。易々と苛立ちを覚えた。
「庵」
「……なんだよ」
「学校で、岬はいつも一人なのか」
今も、生けられていたときも。岬は毎夕、「ただいま」と朗らかな笑みを浮かべ帰宅する。そして、宇美も同じように目を細め、常套句をなぞる。
———『おかえり、岬。学校はどうだった?』
岬の答えは毎度具体的で、聴いているだけの間も情景が手に取るように浮かんだ。順序立ても、まるで準備を拵えたかのように、彼女は歯切れよく話した。
しかし、思えば確かに。周りの出来事についてはよく話していたが、自身を取り巻く手の話はほとんど無かったように思う。
「俺はクラスが違うからな。いつもかどうかは知らねぇけど……まぁ、一人だな。大体」
「だろうな。岬自身ではなく、周りが避けている。それは今日で痛感した」
いや “させられた” と言った方が正しいか。あいつの居場所は、少なくともあの窮屈な箱の中には無かったと言える。
……ああ、そうか。だから “母親との極楽” を望んでいたわけか。