「なんだ」

「俺の妖術で、周りにお前を岬だと思わせる。……面倒くせぇが、できなくはない」


そういえば、庵はその妖術で学園に居座れているのか。すっかりなじんだ制服姿を横目に、庵が転入した経緯を思い返した。


「俺のできる範囲は、姿と声色を刷り込むだけだ。つまり、岬に見えるかどうか……言動は全て、お前の裁量次第だからな」

「わかっている。問題ない」


問題は、後者———夜風に当たりながらしばらく沈黙が続く。それを破ったのはまたしても庵だった。


「お前、鈴蘭だよな」

「……それがどうかしたか」

「なら、使え(・・)———」


次に、庵の放った言葉が的を得ていたことは事実。厘は納得し、同時に眉間を摘まんだ。


妙案ならぬその “方法” とは、出来る限り、厘が回避したいと考えていた案だった。


——————……


「おい。もうかかってるからな、術」

「ああ。分かっている」


案ずるな。岬の歩き方、食べ方、筆跡、何についても模倣はたやすい。心の内で自負する厘を横目に、庵はほくそ笑んだ。


「感謝しろよ、俺様に」

「そうだな。だが、これは贖罪(しょくざい)に過ぎん。お前が岬にした所業へのな」

「……つーか、なんで縛ったんだよ。岬の身体、傷つけたくねぇんだろお前」


都合が悪いときはすぐに話と視線を逸らす。不本意ながら、自分を見ているようで腹が立った。


「他の男に晒されるよりマシだ」

「ああ……まぁ、確かにな」


珍しく素直な肯定にも同じく、腹が立った。