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いつになく気分の悪い寝覚めだった。


「いってらっしゃい、厘」

「……」


翌朝、両手足に(かせ)をつけた岬の身体が、物憂げにこちらを見上げる。地べたで器用に足を折る。その窮屈な様に、胸は強く締め付けられた。


「精々大人しくしていろ」


……動揺するな。こいつは早妃であって、岬ではない。


厘は懸命に言い聞かせながらアパートを出る。本来ならずっと見張っていたいところだが、仕方ない。せめて家から出ないよう、ああして手錠と足枷を施し食い止めるしか方法は無かった。


監禁さながら。アレを宇美が見ていたとしたら、と考えるだけで悍ましい。しかしそれよりも、手枷足かせに縛られた岬の姿(からだ)に、全身が粉々になりそうなほど波を打った心臓が一番悍ましい。


「———あそこまでやるって、お前ムッツリってやつだろ」


ボコン。ため息を吐き出す最中、横から響いた嘲笑に、厘は拳を振り下ろした。


「……っ!痛ぇだろうがこの野郎!」

「ああ。すまない」


淡々と心にもない謝罪を放ると、庵は解せない様子で「お前……実は俺より暴力的だろ」と後頭部を擦った。


「だろうな。お前は逆に猫を被っていないか? 殊更、岬の前では」

「っ、んなこと……あるわけねぇだろうが、」


徐々に細くなっていく声が図星を物語っている。癪に障る。……だが、と厘は不満を飲み込み、咳を払った。