「ねぇ、どう?これでもそそられない?」


パックリと開いた胸元に、小ぶりな果実が垣間見える。一層、大変、ばつが悪い。……庵を置いてきたのは、どうやら正解だったようだ。


「小娘の体になどそそられん」


厘は額に手を当てながら、出来る限り熱を吸う。


……———舐めるなよ、悪霊。これまで俺がどれだけ耐えてきた(・・・・・)と思っている。……本人(あいつ)以外に、理性を壊されてなるものか。


「ふーん、つまらないの」

「……それより、早く正体を明かせ。まぁ、検討はついているがな」

「んー、だろうね」


本当はもっと驚いて欲しいんだけど、と溢しながら椅子に腰を下ろす早妃。テーブルに肘を立てて足を組む様は、岬の仕草言動から遠くかけ離れていた。


「わかりやすく言うとね、私は夢魔(むま)の一派。分かるでしょう?路地裏で男たちが言い寄ってきたのも、夢魔の力」

「ああ。本能には逆らえないだろうな。普通の人間は」



夢魔———性的魅力を武器として男を誘惑し、それを襲う悪魔の一種とされていた。

存在した時代も国も違っていたはずだが、彼女が夢魔、もしくはそれに準ずる悪霊であるという証拠は嫌と言うほど揃っている。


雄の強い庵があれほど異常を見せたのも、早妃の “武器” によるものに違いないだろう。