思い出されるのは、“声” を掛け続けられていた日々。
まだ鈴蘭の花として生けられていた頃、彼女のか細い声を待ち遠しく思っていたのをよく覚えている。


『リリィ。明日はね、お母さんがお休みなの。だから目いっぱい寝かせてあげようね』

『おはようリリィ。昨日の事なんだけど……よく覚えてないしすごく眠いの。なんでだろうね』 

『いい香り……やっぱり、摂り込むと怠さがなくなるみたい。いつもありがとう、リリィ』


宇美と一緒になって笑い合う声も、宇美に気づかれないよう囁く声も、すべてが愛おしかった。

たとえ瘴気から抜け出すことができていても、ただ水に差されているだけでは、本来の力を取り戻すことは出来ていなかっただろう。


——だから、岬。こうして生き続けられているのは、二人が萎れた鈴蘭の花に、生命(いのち)を見出してくれたからなんだ。


「もうすぐ着くからな」


薄い瞼で閉じられた、その瞳に視線を落とす。そして、心の内で懇願した。出来るだけ早く戻ってきてくれ、と。