——このままではまずい、だろうな。
それに、霊の姿がもう見えなくなっている、というのも気がかりだ。半分憑依であれば見えるはずの姿が。
「俺は岬を連れて先に帰る。お前は “後始末”、頼んだぞ」
「……チッ、面倒ばかり言いやがって」
「頼んだぞ」
念を押す。不本意そうに背を向けながら、庵は「分かっている」と呟いた。岬の身に起こる異変を察知したからだろう。
……岬が絡むとやけにしおらしいな、こいつ。
厘はピクリと眉を持ち上げ、懐に潜めていた葉を一振りする。葉車が現れたあとは例によって鈴を鳴らし、自身諸とも気配を消した。
ヒュン───
分厚い雲を抜け、雑多に賑わうセンター街を見下ろす。交差点に車が行き交う。
横断歩道の赤信号は、振り返った先で目を伏せていた岬を思い出す。名残惜しそうに、見上げた瞳を思い出す。
「……あの中では随分と楽しそうだったな、岬」
厘はまだ眠ったままの彼女の手から、滑り落ちそうになった紙袋を拾い上げる。中を覗くとそこには、包装紙にまとわれた細長い箱が二つ。施されたリボンには “THANK YOU” と綴られていた。
見なくとも、包みの中身は明白。岬が購入していた水筒だ。『贈りたいから』と、あのときだけは妙に頑なだった。
礼を言うべきはこちらの方なのに。
「どこまでも擦れない娘だ」