『ぬくもりを思い出させてくれた。人を恨んだまま成仏できなかった俺に』


淡色の絵の具が水に溶けていくように、ゆっくり広がる声の波長。恨む、という言葉とは裏腹、彼は変わらず穏やかだった。


『きっとそれは、厘も庵も同じ。……そうじゃないと岬を助けたりしないよ。でしょ?厘』

「……(みな)まで言うな」


厘の頬は蒸気していた。


助けられてばかり。私には、未だ何も出来ない———それは紛れもない事実……だけど。


「厘」

「なんだ」

「……お願い———あの子を助けて」


『助けさせて』と言えない自分を卑下したい。でも今、救える方法があるのなら。私は私のもてる劣等感も罪悪感も、全部認めて力にするから———


岬は割った唇を震わせて、厘の手を握る。



「仰せのままに」



直後、殊勝なセリフと不敵に笑う白い影の残像が、風を呼ぶ。ものの数秒で少女の元へ追いつく厘の姿に、岬は心を貫かれた。深く、深く、貫かれた。



ドクン、ドクン———。

脈が濁った音を立てる。今までにないほど強く、押し寄せる。脳天がぐらついた。