死んでいない……それなら、ここはやっぱり私のベッドの上で、この殿方は一体何者なのか。岬はシーツに身体を滑らせて、怪しい男から距離をとった。


「あの……そうだとすると、あなたはどなたでしょうか……。もしかして、死神?」


死に際に現れる死神なら、この状況も納得がいく。迎えにきた、と言われれば手を伸ばす。しかし彼が放った言葉は神でも、ましてや大王でもなかった。


「“リリィ”だよ」

「……へ?」

「あの花瓶に生けてあった、鈴蘭だ」


開いた口が塞がらない。まさか、と思い視線を移す。同時に、彼の細長い指で差された先には窓際に飾られた花瓶があり、生けていたはずの鈴蘭(リリィ)だけが姿を消していた。


「まぁ、この機会に呼び名を改めてもらいたいところだが……とりあえず、飯食うか?」