「じゃあまずは肉だろ?そんでそのあとは、」

「おい庵。お前が決めるな」

「どうせ、岬が食いたい、っつったらいいんだろ?」

「私はなんでも……そうだね、庵がお肉食べたいならそうしようか」


いいね、と二人に目を細める。


『本当はパンケーキが食べたい、とかない?最近の女の子はその話題で持ちきりみたいだよ』


しかし直後、汐織が放った魅惑的なフレーズに、岬は目を見開いた。その甘美な響きを復唱した。


「はぁ?パンケーキィ?」


内側の声が届かない庵は、岬の “復唱” に顔を近づけ眉を顰める。岬は口元を覆い、しまった、と一歩退いた。


「いいんじゃないか、パンケーキ。俺もときには時好を知る必要があるからな」

「う……」


助け船か否か。厘は意地の悪い笑みを浮かべ、こちらを見据えている。庵が漁船なら、厘は悠々と波を掻き分ける巨艦に違いない、と岬は頬を赤らめた。


『なんか俺、変なこと言ったかな?ごめん岬』

「う、ううん……全然」


からかいの延長か、申し訳なさそうな汐織の声に、厘はわざとらしく喉を鳴らして視線を寄越す。瞬間、羞恥心よりも僅かに、胸の鳴き声が勝ってしまった。