水分が資本な二人には、どこでも冷たい水を飲んでほしいと考えたプレゼント。
出会ったばかりの厘が、水道水に『ぬるい』と顔をしかめていた頃から、ずっと巡らせていた。でも―――


「厘は、まだ気に入ったの見つからない?」


(かさ)に収まりきらないほどの感謝を、うまく伝えられるだろうか。いつか溢れ出してしまわないだろうか。


訊いた直後、頭上に体温が乗せられる。その骨ばった手が厘のものだと理解するまで、岬はしばらく呆けていた。


「お前の好きな色はどれだ」

「わ……私の……?」

「ああ」


しかし、分かってからも大差はない。髪を撫でるようにして置かれた大きな掌に、心臓が荒波を立てていることを除けば。



「白、かな」


僅かに髪を遊ばれる。僅かに視線を持ち上げる。荒波が収まる兆しはより遠のいた。


「ほう。何故だ」

「厘の……鈴蘭の色だし、」


手元。白の筒を一瞥した後、再び薄い影を見上げる。横目に捉えた厘の表情は、枝垂桜のように下ろされた白髪に隠れていた。


「そうか」


見えたのは一瞬。水筒を掬い上げたとき、ほんのり赤い湖畔をつくった首元だけ。しかし岬の頬は、厘の些細な反応に染めあがった。頭から退いた体温が名残惜しかった。


「なら、俺はこれで」

「うん」