「実はね。……こんな風に出かけてみたかったんだ。えっと、二人に買ってあげたいものもあるし」
やっぱり私、今日も浮足立ってる。頬を赤らめて視線を落とす岬に、厘はため息をついた。
「……まぁいい。用を済ませたらすぐに帰るぞ」
「うんっ」
軽めのため息が頭上を撫でる。不機嫌ながら、結局はしっかりと付き合ってくれる厘の優しさが好きだった。すっかり秋の空に見合う羽織に笑みを零し、岬は先を歩く彼を追った。
『厘はとことん岬に甘いね』
「そ、そうかな……」
『うん。なんていうか、特別って感じ』
特別———汐織の言葉を反芻する。同じ相槌を繰り返しながら、それは母も同じであることを戒める。これまで一緒に暮らしてきた家族だから、に違いない。
どうしてか、指先から電流が走った。
「オイ。俺を置いてくな」
「なんだ庵。はぐれるのが怖いだなんて、可愛い所があるじゃないか」
「バカ野郎、怖くなんてねぇ!」
「強がらなくてもいい。その方が通俗的で馴染んでいるぞ」
ほくそ笑む厘と、喚き続ける庵。かち合う二人の横顔を見据えながら、岬は未知の感情に首を捻っていた。