葦の葉のように賑わう街。
ただの交差点なのに、観光名所としても名を馳せるスクランブル交差点の白線は、今日もあまり意味をなしていないように思える。それでも秩序を保っている様は、この島国の美点かもしれない。
「わぁ……すごい人……」
岬は初めて訪れたセンター街に目を見張った。
「なんだってこんなに人が多いんだ」
隣で腕を組んでいる厘は、ごった返す人の波に顔をしかめる。郊外にしか住んだことのない岬たちにとっては、異世界と相違なかった。
「俺様くらいになりゃあ、こんくらい賑わってる方がしっくりくるらぁ」
「……大体、なんでこいつも連れて来たんだ。岬」
う、と口籠りながら、岬は一歩前で目を輝かせている庵を見据えた。
彼との出会いから、ちょうど一週間。
夕飯を共にした日から、庵は岬の住むアパートの屋根を寝床に暮らしていた。手狭な1DKで厘と隣り合わせ、というのはあの一泊で懲りたようで、庵曰く外の方が落ち着くらしい。
それでも、夕飯に誘えば『食ってやらなくもない』と鼻を擦りながらやって来る。妖花同士の仲は相変わらずだったが、生まれた頃から母と二人きりの岬にとって、良くも悪くも騒がしい食卓は新鮮だった。
毎日、放課後を向かえる度に足が弾んだ。