術———?
首を捻る岬を、厘はじっと見つめる。庵よりも濃い瞳の色に、吸い込まれてしまいそうだった。思わず、喉を鳴らした。
「学校では多少なりとも身分証明が必要だろう。おそらく、こいつは教師陣に思い込ませたんだ。……転入してくる予定の生徒だと」
「それが、庵の術……?」
使い慣れていないフレーズをたどたどしく紡ぐ。そういえば、厘も鈴を鳴らして———。
「大筋は合ってんな。お前に当てられんのは癪だが」
「衣服も即興で縫い上げたんだろ。妖術で」
「いかにも勘が鈍りそうな造りだけどな」
犬猿ながらもテンポのいい会話を聞きながら、ああ、本当にこの二人は妖精みたいだ、と岬はしばらく呆けていた。
「庵。よかったら、今日はうちに泊まっていく?」
同時に、高揚していたのかもしれない。庵を誘いながら、オーラを尖らせている厘の方へは向かないように気を付けた。
「まぁ……今日だけなら」
言いながら、庵は奥に詰まっていた銀杏を口に含む。
「あ、うめぇなコレ」
金色の長い睫毛が落とした影に、岬は微笑んだ。