「もうひとつ、聞いてもいいかな?」
「うん?なんだよ」
「庵はいつから学校にいたの?今日まで全然気づかなくって……」
『俺、知ってる。最初は分からなかったけど、たぶん一か月くらい前に現れた転校生だよ。こいつ』
庵よりも先に答えたのは中の声。汐織は環央学園に棲みついた霊だ、と聞いていたので、諸々の事情を知っているらしい。
「へぇ……なるほどな」
「何がだよ」
頷いた厘に、庵は眉間を狭める。やはり、庵には汐織の声が届かないようだ。
「えっと……もしかして、転校してきたの?少し前に」
「まぁ、そんなとこだ」
今さっき仕入れた情報に狂いはなさそうだ。しかし聞けば、“転校生” というステータスは庵にとって相当に不本意なものだったらしい。
「人に変わってすぐ、目立たねぇように周りと同じ恰好をしたんだが……門の前でやたら偉そうな人種に捕まった」
つまり、門番の先生に捕まってしまった、ということ。今朝見た光景と相違なく、映像が再生される。当時も、頭髪をしつこく注意されたのだろう。
「並木道を歩いていた生徒の、制服姿を模倣した……ってこと?」
「一日一食、飯の当てがあるのはいいが、学校生活っつーのは窮屈だ。俺にとってはとくに」
「術を掛けたのか」
「ふん、別に構やしねぇだろ」