岬は休まらない心に、茶碗蒸しの温かさを落とした。


「いいから大人しく食え。あぁ、もしや、共食いになることを(うれ)いているのか?」


眉を下げて意地の悪い表情を見せるのは、庵に限ってなのか、否か。少しだけこっちにも、と考える自分はどこかおかしいのだろうか。岬は自分を憂いた。


「残念ながら杞憂だな。そんな小さいこと俺は気にしねぇ。なんたって、お前よりも漢だからな」

「それは、雌雄異株の雄だから、という意味か」

「あぁ?他に理由なんてねぇだろうが」

「はん……岬を使って俺を誘き寄せるなど、雄々(おお)しさ皆無だけどな」

「……」


反論、と思いきや珍しく黙り込む庵は、そっと岬の顔を覗き込む。


「悪かったよ。怖がらせて」


そして、弱々しくそう言った。金色の髪から覗く彼の耳は、またしても赤い。同時に岬も、芯から温かくなったように感じた。


「ううん、もう平気だよ。……それより、どうして厘に会いたかったの?」

「その言い方には語弊がある。俺は別に、会いたかったわけじゃねぇ」

「じゃあどうして……」

「いわゆる、同族嫌悪っつーやつだ。とくにこいつはチャラチャラしていて気に食わない」


言われた厘は、ツンとそっぽを向いている。どちらかと言えば、庵の身なりの方が “チャラチャラ” に等しい気もするけれど。と、着崩された制服を見据えて苦笑した。