どこか呆れた様子の男は腰を下ろし、視線を沈める。横たわっている自分の身体も一緒に沈んでいることに気が付き、岬はベッドの上にいることをようやく悟った。
暑さに蒸れたベッドの先、視線をすこし持ち上げると白髪の男が額を押さえている。
「岬」
そして、当たり前のように名前を呼ぶ。岬は肩を竦ませ、初めてピタリ視線を合わせた。
切れ長の吊り目に、鈍色の瞳。白髪は糸を垂らしたように綺麗で、かつ細い。肩を撫でるくらいの長さが、男性にしては似合っていて、印象的。じりじりと距離を詰める眉目秀麗を見据えて、岬は口をキュッと結ぶ。男と分かるのに、“美人”と称えたくなるほどの風体だった。
「一応言っておくが、お前は母親のいる極楽にはいけないぞ」
「え……」
身体を起こすと、頬に白髪がサラリと触れる。近くで見ると、彼は一層美人だった。
「正しくは、まだ、だな。お前はまだ死んじゃいない」
にやり、弧を描く口角に視界を奪われる。