庵が立ち止まったのは、校門を後にして数分後。
秋の香りがより強く漂い、ほんのり黄色く染めた葉がハラハラと舞っている。その場所は少し前に、車が衝突事故を起こした銀杏の並木道だった。
あのときは、まだ葉も色づいていなかったっけ。
「これだ」
「……?」
「これが、俺の本来の姿だ」
庵が手を添えたのは、視界を占めていた銀杏の木。直ぐに納得できるほど、高い所で風に揺られる葉は彼の髪色とよく似ていた。
「じゃあ、ずっと傍にいたんだね。厘と同じだ」
思わず笑みを零すと、二人は息継ぎまでぴったり合わせて「同じじゃない」と岬を睨んだ。そういうところが似てるんじゃ、と放とうとした言葉は寸前で呑み込んだ。
『岬、俺よく分からないんだけど、木がこいつに化けてるってこと?』
「化けている……というか、妖花っていう種類のあやかし?精霊?なんだよ。厘も庵も、他の植物とは違うみたい」
『ふーん、なるほどねぇ』
まだ言い争っている二人を横目に、汐織と密かに言葉を交わす。あやかし、と言われても冷静さを欠かない彼に、岬は感心した。終いには『妖精みたいだね』と的を射た表現が好きだと思った。
そんな彼の姿に、会ってみたいと思った。