ゴチッ、と目の前で響く頭突きの音。庵が突きつけ、厘は顔を歪める。その表情は、痛みとは別の感情によるものだと解った。
「あのっ……庵は何の花なのかなぁ……?」
どうか、和やかに。願いながらも、こちらを見据える二つの眼光に思わず後ずさる。厘の方はまだしも、庵の視線にはまだ棘があるように感じた
「ケッ。んなこと知ってどうすんだよ」
庵は腕を組みながら岬を見下ろす。言われてみれば、髪も瞳も、人とは一線を置いて美しい。彼を妖花であると受け入れることは、難しくなかった。
「まぁいい。ついてこい」
「え?」
「見せてやるっつってんだよ。本来の俺の姿を」
庵は大股で茂みを突っ切りながら、岬たちを先導する。元には戻れないんじゃ、と以前聴いた厘の言葉を辿り、首を捻る。
その間、厘は汐織と会話を交わしていた。
『あいつ、女の子に対しても容赦ない感じだな。絶対モテない』
「その解釈はあながち間違いではないぞ。ところでお前、いつから岬に憑いている」
『今日の朝から。汐織っていうんだ。それより俺のこと見えるんだね。珍しい』
「ああ。あいつ……庵には見えていないようだがな」