庵はにやり、口角を吊り上げながら距離を詰める。
「お前に危害を及ぼすつもりはなかったんだけどなぁ。どうやらそれも見抜かれていたらしい。……だから、最後は本気で狙わせてもらった」
「最後……?」
捉えられた視線に肩をびくつかせながら、背後に意識を置く。
地面に散乱した鉢の破片。厘が来なければ、この柔い頭は鈍い音で叩きつけられていただろう。
『つまり、それまではフリだったってことか』
汐織の言葉で思い出す。突然倒れてきた掃除用具入れに、窓ガラスを突き破った白い矢も、その “仕業” に含まれていた事をようやく認識した。
「厘は、庵と知り合いなの?」
尋ねると、彼はピクリと眉を動かした。
「……同種だ。俺と同じ妖花だよ」
「えっ、妖花?」
白い矢がクラスメートに視えなかったのは、妖花の仕業によるものだったからなのか。岬の思考は静かに巡った。
「あぁ。それより岬、あいつの名———いや、まぁいいか」
その合間、厘はやれやれ、と言いたげな様子で指先をこちらの頬に滑らせる。
「よく心に留めておくことだ。妖花は俺だけじゃない。こういう、特に性質の悪いやつもいるってことをな」
「あぁ……? なんだとクソ野郎」
「野郎臭が匂うのはお前の方だろ、庵」
「ったりえめぇだろ。お前みたいなチャラチャラした草花とは格がちげぇんだよ」