「やり方が汚いんだ、お前は」
厘は丁寧に岬を足先から下ろしながら、正面を睨み見る。庇うように一歩前へ出た和装姿に、再び心臓が呻いた。
「ハッ、知るかそんなもん。早く出てこねぇのが悪い」
「誘き出されてると分かっていてのこのこ出てくるほど、俺はお人好しじゃない」
「でも実際、出て来ただろうが」
「……身を隠すより、優先すべきことがあったからな」
張り詰める空気。沈黙している間は、色付き始めた葉の擦れる音が妙に響く。仲睦まじいとはお世辞にも言えなかった。
「優先っつーのはソイツか。その小娘か」
小娘って……同じ制服を着ているはずなんだけどなぁ、と厘の背に隠れて苦笑した。
「ぬけぬけと。分かっていて狙ったんだろう、岬を」
「フハハッ、まぁな。ソイツから妙にいけ好かない匂いが漂うもんだから、試させてもらったんだよ」
匂い———。岬には思い当たる節があった。おそらく今朝嗅がれた匂いのこと。どうやら、体臭を指していたわけではなかったらしい。
厘は「なるほどな」と頷いた後、岬を横目に捉えた。
「悪いな。どうやら俺の匂いがお前についてしまっていたらしい」
「……え?」
「今日の、嫌がらせ、という言葉に思い当たるもの。すべてはコイツの仕業だ。……俺を誘き寄せるためのな」