「岬———!!」


瞬間、感じたことがないほど細く鋭い風と、憶えのある体温が体を包み込む。焦燥を含んだ声も、やけに心地がいい。




頭上に落ちてくるはずの衝撃は、それから何秒経っても訪れなかった。過る予感に岬はゆっくり瞼を持ち上げ、息を切らした男の横顔を盗み見る。


「すまない。遅くなった」


見た目の割に、軽々と抱きかかえる腕っぷし。乾いた風にも綺麗に靡く無色白髪。いまでは唯一無二の “居場所” 。厘だった。


すまない、よりも別の何かを言いたげで、かつ不機嫌そうな瞳に、どうしてか胸が高鳴った。


「り、ん……」

「何はともあれ、間に合った事は良しとしよう。……それより、知らぬ間に憑かれてるな。お前」


彼はお姫様抱っこの要領で抱えたまま苦笑する。良し、でないことが別にあるのだろうか。物言いを気にしながら周りを見渡すと、人気のない校舎裏の茂みに入っていて、


「やっとお出ましか……」


正面では、ある人物がほくそ笑んでいた。


「え……どうして、」

『あいつ……』


内側と声が重なる。そして、岬の脳裏にはある言葉が過った。


———『あの庵って男、気を付けた方がいいかもよ』


今朝聞いたばかりの忠告。目を爛々と光らせている人物は、その庵に違いなかったからだ。