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「ねぇ、今日ファミレス寄ってかない? 期間限定でお芋タルトやってるって」

「なにそれ良さげ~っ、私も行く!」

「あーごめん、いま金欠なんだわぁ。また誘って」


生徒玄関、東口。同級生の会話を横にローファーを取り出す。


お芋タルト、美味しそうだね。と、同調したらどうなるだろう。避けて散っていくに違いないと分かっていても、試してみたくなる。母から問われる『学校は楽しかった?』の常套句に、たまには堂々と答えてみたい。


答える相手はもういないと分かっていても、思考は未だ同じ線路を辿っていた。


「ふぅ……」


例によって見過ごした背中たちは、キャッキャと楽しそうに足を運ぶ。岬は横目に息をついた。


———早く帰って、厘のご飯が食べたい。


思い伏せながらを昇降口を出る頃には、すでに汐織の忠告は薄れていた。新鮮だ、と。寂しさを寄せていた秋の香りにも、馴染んでしまっていて———だから、気付くことが出来なかった。



『岬、避けて!』

「え?」


正方形が連なるタイルに、足を踏み込んだ直後。上から降ってくる赤茶色の物体に、気付くことが出来なかった。


あれは、植木鉢……?


物体を見極めた刹那、釘を刺されたように動かない足。自分の鈍い反射神経では避けられないことを悟り、岬は目を閉じた。心もとない両手で、頭を押さえることが精一杯の防御だった。