あの場に居続けたら、クラスメートに恐怖を与えてしまうと、痛いほどに解っていた。気味が悪い、と広まる噂が、教師を含め校内全体に知れ渡っていたことも、同様に。
だから、窓が割れた要因に疑われても無理はない。花籠岬が常識では説明しがたい力でもたらした、と。
「大丈夫……大丈夫」
皆は間違っていない。普通でない方が、きっと悪い。
バランスを保つために必要な、アンバランス。「花籠さんが本当にやばくてさ」、そんな切り口で教室が盛り上がる様子が、物語っていた。
岬は唇を固く結び、早歩きで廊下を行く。
途中、「もうすぐ始業だぞ」と掛けられた教師の声は、耳に入らない。内側で鳴る心音の方がはるかに大きかった。昔習った通り、心臓がポンプだと改めて身に染みるほどに、うるさかった。
何度も経験してきたはずなのに。なのに、どうして———
鼻の奥を突き刺す痛みに顔を歪めた瞬間だった。
『危ない……!!』
内側から響く声。中庭に向かっていた足を止めたのは、条件反射。目の前には中二階までの階段が続いている。
見据えていた爪先の視界が塞がれたのは、その直後。ガシャンッ、と鼓膜を裂くような大きな音が、岬の肩を震わせた。