「先生———!ここっ、ここっ、急に割れたの!」


戸惑いを隠せない内に、担任がやって来る。見えざる白い矢の謎よりも、クラスメートから詰められる距離の方が怖い。


岬の脈は荒波を立てた。


「うわッ。なんだこれ。誰かが割ったんじゃなくてか」

「違いますよ。だって、傍に居たのって……」


担を連れてきた女子生徒は、岬を一瞥するなり「あ」と一歩、二歩退いた。触れてはいけないものに近づいてしまった、と言わんばかり。臆されることには慣れていた。


「花籠さんだけです……ここに居たの」


また一歩二歩と距離を取りながら、クラスメートは告げる。腫れ物以前、敬遠するような瞳で、自ら狭めた距離を遠ざけた。


……大丈夫、大丈夫。


岬はペンダントを握りしめながら調える。この世のモノではない、視えない何かと言葉を交わす様は、さぞおぞましいのだろう———悟ったのは、中学に上がってからのことだった。


「ごめんなさい、しっかり見ていなくて……でも私は、触れていませんので」

「あ、おい花籠……!」


震えた唇を割り、小さく頭を垂れた後、岬は教室から飛び出した。