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伊藤(いとう) (あん)

金髪の彼の名前はそういうらしい。本人は『庵だ。ただの庵だ』と言い張っていたけれど、校門前で『伊藤ー!お前はいつまでそんな頭で———』と怒鳴られていたのを、隣で聴くことになったのだ。




「今日は静かだなぁ……」


教室の片隅。窓の外を眺めながら、岬は呟いた。


朝は全く静けさとは程遠かったけれど、ここ最近は久しく静寂に包まれている。でも、数日もすれば霊に憑かれるの繰り返し。嵐の前の静けさ、と言っても過言ではない。


しかし風はすでに、静かに足元を掠め始めていた。



ヒュンッ、パリンッ———。


鋭く空気を切る音。そして、完全に閉ざされていたはずの窓際から、隙間風が吹き込む。


「……え?」


どこから放たれたのか。白い矢が窓を突き破り、中庭の樹木に刺さったのだと気が付いたのは、教室内が騒然とした直後のこと。


「なっ、なに!? いまの」

「ガラス、飛び散ってるし……いや、とりあえず先生呼びに、」

「どういうこと……? 急に窓が割れるなんて。石でも飛んできたのかしら」


岬は窓際に寄せられる声と言葉に、大きく目を見開いた。


急に……?石……?みんな、あの矢が見えていないの……? 目の前を素早く通過した、あの白い矢、視えていないの?