あれだけの力、きっと運動部に違いない。柔道部にしては線が細いので、空手部あたりだろうか。
「に、おう……?」
太陽を優しく反射する金髪に、群青の瞳。不毛な推測をしていると、その端麗な容姿に視界を奪われる。気づいたころには、彼は至近距離で鼻をひくつかせていた。
「ああ。……匂う」
「な、なにがでしょうか、」
毎日お風呂も入っているし、制服もまだ汚れていないはず。え……もしかして。
岬は自らの体臭と口臭を案じ、掌で口元を塞いだ。スンスン、と距離を詰めながら寄せられる鼻腔への配慮と、年頃の女子としての恥じらいだった。
「いけ好かねぇ匂いだ」
彼が口を開く度、心臓に刺さる。厘にもそう感じられていたらどうしよう、と肩を落とし、岬は後ろを気に掛ける。しかし、後ろに居たはずの厘はすでに、どこかへ気配を消していた。
「でも薄い。……妙だな」
眉を顰めた美青年に首を傾げる。
瞬間、ふわりと頬を撫でるように漂う風。そこには朝に感じたときよりも濃く、深く、秋の香りが含まれていた。