「あ、あの……もう離してあげてもいいんじゃ……」

「あ?俺に指図すんな」

「う……」


横から挟めば睨まれる。むしろ、蛇よりも鋭い。


「かっ、観念した……、それでいい!イイから、放してくれ……」

「話す?何をだ?まだキメてる途中なのに、無駄話なんかしてられっか」


それに、理由は何でもいいらしい。助け船云々よりも、今は技を決める方に傾いているらしい。船は船でも、荒波に揉まれる漁船のようだった。


「たのむ、頼むよォ……!コレじゃあ使い物にならなく———」

「ハァァ?……ったく、わかったよ。もういい」


呆れたように投げ捨てる恩人の言葉に、岬は今度こそ胸を撫で下ろした。


本当にカフェを営むつもりだったとしても、あの(ひと)は今後、この制服をモチーフになどしないだろう。絶対に。


逃げるように去っていく大蛇の背を見つめながら、岬は思い伏せた。入れ墨が泣いているように見えた。




「あの……すみません。助けてくれて、ありがとうございました」


金髪の彼に首を折る。漁船といえど、助けてもらった事実は変わらない。純粋な感謝だった。


「謝りたいんだか礼がしたいんだか分かんねぇな」


ぶっきら棒。振り返りながらに言われ、「す、すみません……」と声を細くする。直後、逸らした視線を再び注ぎ、風体を改めて一瞥する。


彼は同じ環央学園の制服を纏っていた。


「つーかお前、なんか匂うな」