「す……すみません。気を付けます」
「気にしないでよ。ところでさぁ、お嬢さん」
しかし再び、一転、男の目の色が変わる。撫で下ろしたはずの胸が、ざわつきを覚える。
「その制服、環央学園のだよね?カワイイなァ」
蛇の男は膝を曲げ、岬の胸元に視線を合わせた。途端香るタバコの匂いに、金木犀が掻き消される。鼻の奥をつつくような香りに、口を直線に結んだ。
「俺ね、実は新しいカフェをオープンする予定でさぁ」
「……カ、フェ……」
「よかったら、何枚か写真撮らせてくれないかな。その制服、スタッフ用の制服の参考にさせてもらいたいんだけどなァ」
ゾクリ。足先から胸元まで、舐められるように持ち上がる男の視線が、背筋を妙に凍らせる。
「その色のタイも、可愛いよねぇ」
え、へへ。
ひきつった頬が痛い。岬は声にならない声で笑った。
「少し触ってもいい?」
承諾などあってないもの。直ぐにもったりとした手がタイに伸びる。
「っ、」
反動で胸元に触れたのは、まぐれじゃない。そう理解してしまったのに、声ひとつあげることができなかった。りん……厘……ッ———心の内で助けを求める声だけが、脳天を支配した。
「やっぱり可愛いねぇ……君」
至近距離に、入れ墨と先の尖った口角が近づく。
同じ異性であっても、厘が距離を詰めるときに覚える緊張感とはまったく違う。精霊だから?妖花だから?———自問自答の終点はなく、それでもただ “違う” ことだけが、目の前の恐怖を煽った。