柔らかい陽光に(かざ)したその飾りを見据えた直後、厘は一歩後ろへ下がる。適度に置かれる距離。みさ緒が離れてから、決まってこの距離を保ちながら登校するようになっていた。


目立たないように、という配慮なのか。先日まで、みさ緒が憑いている頃までは、絶対傍から離れない強い意思(むしろ意地)さえ感じていたのに。




「これ……押し花かな」


どうせなら、学校まで一緒に行けたらいいのに。岬は視界に写らない厘の気配を感じながら、翳したガラスの楕円を見つめる。中に散りばめられた黄色の粒は、花びらのように見えた。


厘に訊けば、すぐに何の花か見抜いてくれるだろうか。……そういえば、厘のような妖花は他にも———


「お、っと」

「わっ……」


逡巡の最中、岬は大きな図体に身体を弾かれた。人影に気づかなかったのは、ペンダントを見つめたまましばらく呆けていたせいだろう。


「ご、ごめんなさい」


相手は肩幅の広い大柄の男性。体をよろつかせるだけで済んだのは幸いだったが、その大柄を見上げるなり冷や汗が要所から吹き出す。首筋に入った蛇の入れ墨が、こちらをにらんでいるように見えた。同時に、凄まれることを覚悟した。


「……あぁ、いいっていいって~」


しかし、それは杞憂だったらしい。持ち上げた視線の先、糸目をさらに細める男性に、岬は胸を撫で下ろした。